労災保険と会社に対する請求の違い

労災保険の保障内容の特徴

(1)給付の内容が法律で決まっているため、補償されるのは損害の一部にすぎない。

損害全体が回復されるわけではない。

(2)事故発生について事業者に過失があることは必要ない。

(3)労働者自身に通常の過失があっても制限なく給付を受けられる

(但し、労働者に故意や重大な過失がある場合支給が制限されます)。

(4)手続きは、労働基準監督署へ申請する。事業者の同意は不要。

(5)時効期間は障害、遺族補償給付が5年、その他は2年。

(6)労災に認定されない等の不服がある場合は、労働基準監督署の所在地を管轄する労働局に置かれている労働者災害補償保険審査官に不服の申し立て(審査請求)ができます。

(7)審査官の決定に不服がある場合には、再度不服の申立(再審査請求ができます)

(8)再審査請求でも、労災に認定されない等の不服がある場合は、労働基準監督署等を相手に訴訟を提起する必要があります。

 

事業主(会社)や第三者への損害賠償の特徴

(1)原則として発生した損害全てが賠償の対象

(労災保険では給付されない慰謝料請求や逸失利益の請求ができる)。

(2)労働者自身の過失は考慮される。

(3)請求をする相手に安全配慮義務違反などの過失が必要。

(4)相手が支払を拒否する場合、裁判所での裁判等が必要。

(5)事業者を相手とする場合、時効期間は症状固定から10年(安全配慮義務違反等の場合)

(6)会社との示談交渉で解決できる場合もあるが、交渉不成立の場合は、会社を相手に訴訟を提起することになります。

 

労災保険と会社に対する損害賠償請求の違い

(1)労災保険は、事業者は強制的に加入しなければならない保険であり、労災の認定がなされれば、労災保険給付は必ず、なされることになります。  

 これに対して、会社に対する損害賠償請求は、被害者側から主張しないと、当然に会社が支払ってくれるわけではありません。また、会社に財産がまったくないと言う場合、法律上の請求権を有していても、回収できないリスクがあります。(お金のない人に、借金を払えと言ったところで、払ってもらえないことと似ています)。

(2) 次に、請求できる損害の内容が異なります。  

 労災保険の給付は法律上決まっていますので、現実に発生した損害をすべてカバーしてくれるわけではありません。他方で、会社に対する損害賠償請求は、発生した損害をすべてカバーするものです。
 労災保険と会社に対する損害賠償請求は、交通事故における自賠責保険と加害者に対する損害賠償請求に似ています(全く同じではありません)。  

 自賠責保険と加害者に対する請求は、2重に請求が認められるのではなく、発生した損害について、先に自賠責保険から賠償金を受領している場合は、その金額を控除した上で、加害者に賠償請求をすることになりますが、同様に、労災保険からすでに受領している金員は控除した上で、残りの残額を会社に賠償請求することになります。  

 ただし、労災と自賠責を比較すると、労災保険給付は著しく低額であるため、会社に請求できる賠償額は、大きな金額になるケースが多いと言えます。

(3) 訴える相手方の違い   

 労災に関連する裁判(訴訟)には大きく分けると2つあります。   

 一つは、労災の給付内容(労災として認められるかどうか、後遺障害等級の内容など) について不服がある場合は、労働基準監督署を相手に訴訟を提起することになります。   

 もう一つは、会社に対して損害賠償請求する場合は、会社を相手に訴訟を提起することになります。